始めに
令和5年12月16日に、令和5年度の税制改正大綱が公表されました。
世間の関心の高かった贈与税制度の改正が、具体的に実行される内容になっています。
順を追って、この改正について説明いたします。
税制改正大綱が世間で注目されていた理由
数年前から、税制改正大綱の内容が世間で注目されていたのは、次のような背景があったためです。
- 政府与党が国会の両院で過半数の議決権を有していたため、税制改正大綱の内容のままで改正される傾向があった。
- 有権者の関心の高い生前贈与制度の改正案が、平成31年度の税制改正大綱(平成30年12月公表)から令和4年度の大綱(令和3年12月公表)まで、今後改正すべきテーマとして、毎回取り上げられていた。
令和4年度の税制改正大綱
令和3年12月に公表された同大綱には、贈与税制度の改正について次のように記載されていました。
『高齢化等に伴い、高齢世代に資産が偏在するとともに、相続による資産の世代間移転の時期がより高齢期にシフトしており、結果として若年世代への資産移転が進みにくい状況にある。高齢世代が保有する資産がより早いタイミングで若年世代に移転することになれば、その有効活用を通じた経済の活性化が期待される。一方、相続税・贈与税は、税制が資産の再分配機能を果たす上で重要な役割を担っている。高齢世代の資産が、適切な負担を伴うことなく世代を超えて引き継がれることとなれば、格差の固定化につながりかねない。このため、資産の再分配機能の確保を図りつつ、資産の早期の世代間移転を促進するための税制を構築していくことが重要である。わが国では、相続税と贈与税が別個の税体系として存在しており、贈与税は、相続税の累進回避を防止する観点から高い税率が設定されている。このため、 将来の相続財産が比較的少ない層にとっては、生前贈与に対し抑制的に働いている面がある一方で、相当に高額な相続財産を有する層にとっては、財産の分割贈与を通じて相続税の累進負担を回避しながら多額の財産を移転することが可能となっている。今後、諸外国の制度も参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化防止等の観点も踏まえながら、資産移転時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。』
同大綱では、贈与税制度の改正の目的は、次の二つとしています。
- 若い世代への財産の早期移転を促し、経済を活性化させたい(経済成長を重視)。
- 相続税の節税対策としての生前贈与を抑制し、相続税の税収をしっかり確保したい(増加する歳費の財源に充てるため、税収確保を重視)。
"若い世代への財産の早期移転"と"相続税の節税対策の抑制"は相反するテーマのようにも思われますが、この二つを同時に叶えるための改正が政府与党で議論されていました。
世間の予想
"暦年課税制度が廃止され、相続時精算課税制度に一本化されるのでは"という、税収確保に力点を置いたダイナミックな改正を予想する声が大きかったかと思います。
他方、弊所では、東海労金さんのコミュニケーションマガジン「Radar」の2021冬号の紙面にて、経済成長に力点を置いたダイナミックな改正が行われるのでは、という予想を披露させていただきました。
結果 令和5年度の税制改正大綱
令和5年12月に公表された同大綱では、贈与税の制度を次のように改正するとしています。
- 生前贈与加算の期間を3年間から7年間に拡大する(令和6年以降の贈与に適用)
- 相続時精算課税制度でも、年間110万円以下の贈与は免税にする
ダイナミックな改正(フルモデルチェンジ)ではなく、現行制度を一部手直しする改正(マイナーチェンジ)になりました。
相続時精算課税制度の改正が現行制度の使い勝手の改善に止まり、若い世代への財産移転を促すインセンティブは盛り込まれていません。
そのため、この改正だけでは、相続時精算課税制度の利用者が増加し、若い世代への財産移転が積極的に行われることにはならないでしょう。
生前贈与加算の改正の方がインパクトが大きく、税収確保に力点を置いた改正という印象を受けました。
結び
予想が外れて恐縮ですが、改正案の国会での推移を見守り、新たな贈与税制度に順応していきたいと思います。