配偶者居住権の評価


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本ページでは、配偶者居住権の評価方法について、その要点をまとめています(2022年11月更新)。


概要

  • 配偶者居住権は、配偶者が居住建物を無償で使用する権利です。
  • 配偶者居住権は、借家権のような、建物に関する権利です。配偶者居住権の設定された建物の敷地については、配偶者居住権に基づく敷地利用権の影響を受けることになります。
  • 被相続人が居住建物を単独で所有していたケースか、被相続人と配偶者の共有になっていたケースに限り、配偶者居住権を設定することができます(敷地については、相続開始時点の所有形態による制限はありません)。
  • 建物の自用家屋としての評価額=配偶者居住権の評価額+居住建物の所有権の評価額
  • 土地の自用地としての評価額=敷地利用権の評価額+居住建物の敷地の所有権の評価額
  • 配偶者居住権の目的となっている建物の敷地は、所定の要件を満たしていれば、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例の対象になり得ます。敷地利用権についても同様です。

評価額の計算式

設例

  • 被相続人は令和3年10月1日に他界。令和4年3月20日に遺産分割協議がまとまり、配偶者居住権を設定することになりました。
  • 分割協議が成立した時点における配偶者の年齢は、80歳10ヶ月です。
  • 配偶者居住権の存続期間は、遺産分割協議書に特に定めていません。
  • 被相続人が100%所有していた居住建物(賃貸部分なし)とその敷地を、子の一人が相続しました。
  • 居住建物は木造で、平成23年12月1日に新築で建てられました。
  • 配偶者居住権を仮に設定しなかった場合、建物の相続税評価額は2千万円、土地の相続税評価額は5千万円です。

配偶者居住権の評価

  • 耐用年数:木造のため、下記の耐用年数の表より33年になります。
  • 経過年数:建物の建築日から配偶者居住権の設定日(分割日)までが約10年3ヶ月で、6月未満の端数は切り捨てることから、10年になります。
  • 存続年数:配偶者居住権の設定時点における配偶者の満年齢(80歳)を下記の存続年数の表にあてはめると、12年になります。
  • 複利現価率:存続年数12年を下記の複利現価率の表にあてはめると、0.701になります。

配偶者の亡くなる直前の配偶者居住権の将来価値

2千万円 × 配偶者他界時点の耐用年数の残年数11年(耐用年数33年-経過年数10年-存続年数12年) ÷ 配偶者居住権設定時点の耐用年数の残年数23年(耐用年数33年-経過年数10年) = 9,565,217円

 

※仮に、 "配偶者他界時点の耐用年数の残年数"か"配偶者居住権設定時点の耐用年数の残年数"が0以下になったときは、この"配偶者の亡くなる直前の配偶者居住権の将来価値"を0円として計算します。その結果、配偶者居住権の評価額は、建物の自用家屋としての評価額と一致することになります(居住建物の所有権の評価額は0円)。

 

将来価値を現在価値に割り戻した金額

9,565,217円×複利現価率0.701=6,705,217円

 

配偶者居住権の評価額

2千万円-6,705,217円=13,294,783円

 

居住建物の所有権の評価

 

2千万円-13,294,783円=6,705,217円

 

敷地利用権の評価

 

5千万円-5千万円×複利現価率0.701=14,950,000円

 

居住建物の敷地の所有権の評価

 

5千万円-14,950,000円=35,050,000円

耐用年数

 

配偶者居住権等の評価で用いる、建物の構造別の耐用年数は次のとおりです。

 

事業用建物の耐用年数の1.5倍の年数になっています。

 

構造 耐用年数

鉄骨鉄筋コンクリート造

鉄筋コンクリート造

71

れんが造・石造・ブロック造

57

金属造

(骨格材の肉厚 4㎜超)

51

金属造

(骨格材の肉厚 3㎜超 4㎜以下)

41

金属造

(骨格材の肉厚 3㎜以下)

29

木造・合成樹脂造

33
木骨モルタル造 30

存続年数

 

配偶者居住権の存続年数は、原則、配偶者居住権が設定された時点における配偶者自身の平均余命です。

 

ただし、遺産の分割協議等で配偶者居住権の存続期間を別途定めていたケースでは、別途定めた存続期間と平均余命のうち、いずれか短い方の年数になります。

 

男性の平均余命

 

最新の完全生命表(第23回)に基づく、61歳以上の男性の平均余命は次のとおりです。

 

配偶者居住権が設定された時点(遺言により設定された場合は相続開始日、遺産分割協議により設定された場合は協議の成立した日)における、配偶者自身の満年齢をあてはめます(配偶者居住権等の評価に関する質疑応答事例6より)。

 

年齢 平均余命 年齢 平均余命 年齢 平均余命 年齢 平均余命 年齢 平均余命
61 23 71 15 81 9 91 4 101 2
62 22 72 15 82 8 92 4 102 2
63 22 73 14 83 8 93 4 103 2
64 21 74 13 84 7 94 3 104 2
65 20 75 13 85 7 95 3 105 2
66 19 76 12 86 6 96 3 106 2
67 18 77 11 87 6 97 3 107 1
68 18 78 11 88 5 98 3 108 1
69 17 79 10 89 5 99 2 109 1
70 16 80 9 90 4 100 2 110~ 1

女性の平均余命

 

最新の完全生命表(第23回)に基づく、61歳以上の女性の平均余命は次のとおりです。

 

配偶者居住権が設定された時点(遺言により設定された場合は相続開始日、遺産分割協議により設定された場合は協議の成立した日)における、配偶者自身の満年齢をあてはめます。

 

年齢 平均余命 年齢 平均余命 年齢 平均余命 年齢 平均余命 年齢 平均余命
61 29 71 20 81 12 91 5 101 2
62 28 72 19 82 11 92 5 102 2
63 27 73 18 83 10 93 5 103 2
64 26 74 17 84 9 94 4 104 2
65 25 75 16 85 9 95 4 105 2
66 24 76 15 86 8 96 3 106 2
67 23 77 15 87 7 97 3 107 2
68 22 78 14 88 7 98 3 108 1
69 21 79 13 89 6 99 3 109 1
70 20 80 12 90 6 100 3 110~ 1

複利現価率

 

民法第404条第2項に定められた法定利率による、複利現価率は次のとおりです。

 

存続年数 複利現価率 存続年数 複利現価率 存続年数 複利現価率
1 0.971 11 0.722 21 0.538
2 0.943 12 0.701 22 0.522
3 0.915 13 0.681 23 0.507
4 0.888 14 0.661 24 0.492
5 0.863 15 0.642 25 0.478
6 0.837 16 0.623 26 0.464
7 0.813 17 0.605 27 0.450
8 0.789 18 0.587 28 0.437
9 0.766 19 0.570 29 0.424
10 0.744 20 0.554 30 0.412

配偶者居住権が消滅したときの税務関係

 

相続税法基本通達9-13の2において、配偶者居住権の消滅原因に応じて、税務関係が定められています。将来において贈与税等の負担が生じる可能性が高いときは、配偶者居住権の活用を避けるべきと考えます。

 

なお、贈与税の負担が生じてしまったときに贈与税を納付することになるのは、配偶者ではなく、建物や敷地の所有者です。

 

贈与税等の負担が生じないケース

  • 配偶者居住権を取得していた配偶者が亡くなったとき(民法第597条第3項より)
  • 配偶者居住権の存続期間が満了になったとき(民法第597条第1項より)
  • 居住建物が火災等により全焼したとき(民法第616条の2より)

贈与税の負担が生じるケース

  • 配偶者と所有者との間で自宅不動産を売却することで合意し、売却前に配偶者居住権を消滅させたとき(所有者が、配偶者に対し、配偶者居住権の消滅に対する相応の対価の支払いをしなかった場合に限る。)
  • 居住建物の所有者が配偶者居住権を消滅させるとき(民法第1032条第4項より)

※居住建物の全てが配偶者の財産に属することになったとき(民法第1028条第2項より)も、配偶者居住権が消滅しますが、税務関係は不明であり、リスクがあるため、避けるべきであると考えます。

敷地利用権の評価単位

 

敷地利用権の評価単位は、敷地の評価単位と一致させます(配偶者居住権等の評価に関する質疑応答事例10より)。

 

自宅敷地が2筆に分かれており、両土地を子Aが相続した場合

 

自宅敷地全体の配偶者居住権を、一括して評価します。

 

自宅敷地が2筆に分かれており、A土地を子AがB土地を子Bが相続した場合

 

A土地の配偶者居住権とB土地の配偶者居住権を、それぞれ区別して評価します。

配偶者が配偶者居住権と居住建物の敷地の所有権を相続するケース

 

配偶者居住権と居住建物の所有権は、通常通り、区分して評価を行います。

 

他方、敷地の方はまとめて評価をし、敷地利用権と敷地の所有権とに区分はしません(配偶者居住権等の評価に関する質疑応答事例14より)。

配偶者が配偶者居住権と居住建物の共有持分を相続するケース

 

例えば、配偶者が、配偶者居住権とともに、居住建物の所有権を他の相続人と半分ずつ相続することも可能です(民法第1028条第2項)。

 

このケースでは、配偶者居住権は、通常通り、居住建物全体に関する権利として計算をします。

 

各相続人の居住建物の所有権は、通常通り計算をした評価額に持分1/2を乗じて求めることになります(配偶者居住権等の評価に関する質疑応答事例13より)。

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