本ページでは、法面のある宅地の評価でも使える"がけ地補正"について、その要点をまとめています(2022年11月更新)。
財産評価基本通達の中では、"がけ地"について特に定義されていません。
一方、「愛知県建築基準条例・同解説」の第8条の解説3の中で、"がけ"は次のように定義されています。
がけとは、勾配が30度を超える傾斜地をいう。
他の県の条例も、同様になっています。このため、傾斜角度が30度を超えるかが、"がけ地補正"の適用可否の一つの目安になります。
また、"がけ地"というと刑事もののTVドラマの舞台になる"崖"がイメージされますが、"がけ地補正"の適用できる土地の範囲はもう少し広いです。
国税庁サイトの質疑応答事例「がけ地補正率を適用するがけ地等を有する宅地」の中で、がけ地補正の適用できる土地について次のように説明しています。
がけ地等を有する宅地とは、平たん部分とがけ地部分等が一体となっている宅地であり、例えば、ヒナ段式に造成された住宅団地に見られるような、擁壁部分(人工擁壁と自然擁壁とを問いません。)を有する宅地です。
つまり、次のイメージ図ような、道路面より高く、法面の傾斜角度が30度を超える宅地についても、がけ地補正が使えます。
財産評価基本通達の中で、がけ地部分の地積の全体に占める割合とがけ地の方位に応じて、補正率が定められています。
この補正率のことを、"がけ地補正率"といいます。
下記表のとおり、がけ地部分の地積の全体に占める割合が大きいほど、補正率は小さくなり、評価額は低くなります。
また、日当たりの関係だと思いますが、がけ地の方位が南のときに評価額が最も高くなり(補正率が大きくなるため)、東、西、北の順で、評価額が低くなっていきます。
※がけ地部分の方位とは、斜面の向き(地面の下がっていく方向)のことです。
がけ地部分の地積 ÷ 総地積 |
がけ地の方位 | |||
南 | 東 | 西 | 北 | |
10%以上 |
0.96 |
0.95 |
0.94 | 0.93 |
20%以上 |
0.92 |
0.91 |
0.90 | 0.88 |
30%以上 | 0.88 | 0.87 | 0.86 | 0.83 |
40%以上 | 0.85 | 0.84 | 0.82 | 0.78 |
50%以上 | 0.82 | 0.81 | 0.78 | 0.73 |
60%以上 | 0.79 | 0.77 | 0.74 | 0.68 |
70%以上 | 0.76 | 0.74 | 0.70 | 0.63 |
80%以上 | 0.73 | 0.70 | 0.66 | 0.58 |
90%以上 | 0.70 | 0.65 | 0.60 | 0.53 |
【設例】
総地積:400㎡
がけ地部分の地積:100㎡
がけ地部分の方位:南向き
路線価:100,000円
奥行価格補正率:1.00
【計算】
100㎡÷400㎡=25%
→ がけ地補正率0.92
評価額=100,000円×1.00×0.92×400㎡=3680万円
※上記表では、がけ地部分の地積割合が10%未満のケースの補正率が定められていません。つまり、10%未満のケースでは、がけ地補正は適用できません。
がけ地部分の地積が全体の10%以上あるかどうかが、重要なポイントの一つです。
次のイメージ図は、評価対象地の一方向が法面になっている事例です(評価対象地を上空から眺めています)。薄茶色の部分が法面で、土地全体の面積(鶯色+薄茶色)のほぼ10%です。
次のイメージ図は、評価対象地の四方向が法面になっている事例です。薄茶色の法面部分は、土地全体の面積のほぼ10%です。意外に思われるかもしれませんが、これで10%あります。
"がけ地補正率"は次の手順で算定します。
斜面の向きが南のときの"がけ地補正率"と、東のときの"がけ地補正率"を、足して2で割った平均値を使います。
なお、斜面の向きが北北西であるときは、北向きとみなして"がけ地補正率"を算定することもできます(質疑応答事例「がけ地等を有する宅地の評価-南東を向いている場合」より)。
がけ地部分の地積割合やがけ地の方位により、補正率は変わってきます。税務署に対し、その具体的な数値や客観的な計算根拠を明確に示すことが求められます。
弊所では、がけ地補正の補正率を正確に算定し、その計算根拠を示す書類を作成して、相続税申告書とともに税務署に提出しています。
がけ地補正は、宅地にのみ適用できるものではありません。
過去の判例や裁決の中には、市街化区域内にある雑種地の評価において、がけ地補正の適用を認めたものも存在します。
東京高裁の判例(平成11年(行コ)第215号)では、がけ地補正を宅地造成費控除と重複して適用することは、原則として認められないとされました。